徒然草

(0) (10) (20) (30) (40) (50) (60) (70) (80) (90) (100) (110) (120) (121) (122) (123) (124) (125) (126) (127) (128) (129) (130) (131) (132) (133) (134) (135) (136) (137) (138) (139) (140) (141) (142) (143) (144) (145) (146) (147) (148) (149) (150) (160) (170) (180) (190) (200) (210) (220) (230) (231) (232) (233) (234) (235) (236) (237) (238) (239) (240) (241) (242) (243)

徒然草第百三十五段

資季大納言入道とかや聞えける人(資季大納言入道とか申し上げた人が)

具氏(ともうぢの)宰相(さいしょう)(具氏宰相)

中将(ちゅうじょう)に逢ひて(中将に逢って)

「わぬしの問はれんほどのこと(「そなたが質問する程度のことは)

何事なりとも(何事であっても)

答へ申さざらんや」と言はれければ(答え申さないことがあろうか」と言われたので)

具氏(具氏は)

「いかが侍らん」と申されけるを(「さあどうしましょう」と申されたのを)

「さらばあらがひ給へ」と言はれて(「ならば挑戦なされよ」と言われて)

「はかばかしき事は(「大事な事は)

片端も学(まね)び知り侍らねば(私は少しも学び知っていませんので)

尋ね申すまでもなし(尋ね申し上げるまでもありません)

何となきそぞろごとの中に(何でもないどうでもいい事の中に)

おぼつかなき事をこそ問ひ奉らめ」と申されけり(はっきりしない知識をご質問いたしましょう」と申された)

「まして(「まして) ここもとの浅き事は(身近でつまらない事なら)

何事なりともあきらめ申さん」と言はれければ(何事であっても明らかにしてお答え申そう」と言われたので)

近習(きんじゅう)の人々(側近の人々が) 女房なども(女房なども)

「興あるあらがひなり(「面白い挑戦ですね)

おなじくは(同じことなら) 御前にてあらそはるべし(君の御前で挑戦なさい)

負けたらん人は(負けた人は)

供御(ぐご)をまうけらるべし」と定めて(御馳走を用意なさるのですよ」と約束して)

御前にて召し合はせられたりけるに(御前にて両名を召して勝負させた所)

具氏(具氏) 「幼くより聞きならひ侍れど(「幼い頃から聞きなれておりますが)

その心知らぬこと侍り。(その意味を知らないことがございます)

『むまのきつりやうきつに(『むまのきつりやうきつに)

のをかなかくぼれいりくれんとう』と申す事は(のをかなかくぼれいりくれんとう』と申す事は)

如何なる心にか侍らん」と申されけるに(どんな意味でございましょう」と申された所)

大納言入道(大納言入道は)

はたと詰りて(ぐっと詰まって) 「是はそぞろごとなれば(「これはつまらない事であるので)

言ふにも足らず」と言はれけるを(わざわざ言うまでもない」と言われたのを)

「本(もと)より深き道は知り侍らず(「もともと大事な事は知りません)

そぞろごとを(つまらない事を) 尋ね奉らんと(お尋ねしますと)

定め申しつ」と申されければ(約束申上げましたよ」と申されたので)

大納言入道(大納言入道の) 負になりて(負けになって)

所課(しょか) いかめしくせられたりけるとぞ。(御馳走を盛大にふるまわれたということであった)