徒然草

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徒然草第二十五段

飛鳥川の淵瀬(飛鳥川の淵瀬のように) 常ならぬ世にしあれば(無常の世ですから)

時うつり(時が移り変わり) 事去り(出来事が次々と過ぎ去り)

樂しび・悲しび行きかひて(楽しみや悲しみが行き交り)

花やかなりし邊(あたり)も(華やかだった場所も)

人すまぬ野らとなり(人の住まない野原となり) 變らぬ住家(すみか)は(家は変わらなくても)

人あらたまりぬ(住人は変わっています)

桃李物いはねば(桃や李の木々は話しませんから) 誰と共にか昔を語らん(誰と昔のことを語りましょうや)

まして見ぬ古のやんごとなかりけむ跡のみぞ(見たこともない昔の身分の高い方の住まいの跡は)

いとはかなき。(とてもはかないものです)

京極殿・法成寺(ほふじゃうじ)など見るこそ(京極殿や法成寺などを見るに)

志留まり(建立したときの志は残り) 事變じにける樣は(事態が変わった様子は) 哀れなれ(感慨深い)

御堂殿の作り磨かせ給ひて(御堂殿が立派に造り)

莊園多く寄せられ(荘園を多くご寄進なさって) 我が御族のみ(自身の子孫だけが)

御門の御後見(天皇のご後見役) 世のかためにて(世の重鎮して)

行末までとおぼしおきし時(将来まで栄えるようにとお考えになったとき) いかならむ世にも(どのような世にも)

かばかりあせ果てむとはおぼしてんや。(これほどすっかり荒れ果てると思ったか)

大門(だいもん)・金堂など(大門や金堂などは) 近くまでありしかど(近頃まであったけれど)

正和のころ(正和のころ) 南門は燒けぬ。(南門は焼けた)

金堂は(金堂は) その後たふれ伏したるままにて(その後倒れ伏した侭で)

取りたつるわざもなし(再建することもない)

無量壽院ばかりぞ(無量寿院だけが) そのかたとて殘りたる。(当時の形見として残っている)

丈六の佛九體(一丈六尺の仏像が九体) いと尊くて竝びおはします(とても尊い様子で並んでいます)

行成(ぎゃうぜい)大納言の額(行成大納言の(書いた)額) 兼行が書ける扉(兼行が書いた扉の文字が)

なほあざやかに見ゆるぞあはれなる(はっきりと見えるのは感慨深い)

法華堂なども(法華堂なども) いまだ侍るめり(未だにあるようだ)

これも亦(これもまた) いつまでかあらん(いつまであるであろうか)

かばかりの名殘だになき所々は(これほどの遺跡さえ残っていない所々は)

おのづから礎(いしずえ)ばかり殘るもあれど(たまたま土台だけ残る所もあるが)

さだかに知れる人もなし。(はっきりと知っている人もいない)

されば(だから) 萬に(何事につけ) 見ざらむ世までを(見れない死後の世のことまでも)

思ひ掟(おき)てんこそ(前もって心に決めるようなことは) はかなかるべけれ。(はかないというべきであろう)